
書体一覧
このページではカリグラフィーの書体の歴史を辿ります。
古代ローマの石碑から中世の写本まで、
時代を超えた書体の世界をじっくりとご堪能ください。
※2つ以上の呼び名をもつ書体がいくつかあり、
タイトルに書かれた書体名が必ずしも一番主流な呼び方とは限らない
※古文書学(palaeography)でのみ取り扱う書体も記してあります。
※大まかに使われた時代に沿って並べているが、各地域で同時に異なる書体が発展することもあり、シンプルな一本の線で歴史を表せないことをあらかじめご了承ください。

読みやすい書体で、最初は壁やモニュメントなどに彫った碑文に使われていたが、非常にバランスが良いので、現代でも様々な場面で用いられている。
The inscription on the base of Trajan's Column, AD 107~113
ローマンキャピタル
roman capital
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modern, by Ying
高さに対して横幅もしっかりあり、ほぼ正方形の比例から、スクエアキャピタル(square capital)とも呼ぶ。石に刻まれることが多いローマンキャピタルに対して、葦ペンで紙に書くための書体。フォーマルの書体だが、格式はローマンキャピタルにやや劣る。ペン先は水平方向に0°を保ち、細やかな角度調整やペン操作が必要で、書くには時間がかかる書体である。
クワドラータ
Quadrata

The British Library Board, Papyrus 229.
オールド・ローマン・カーシブ(old roman cursive)とニュー・ローマン・カーシブ(new roman cursive)の2つに分かれる。オールド・ローマン・カーシブはおよそ1世紀から3世紀に使われ、大文字の書体とされてますが、ニュー・ローマン・カーシブは3世紀以降に現れ、オールドと異なり、小文字の書体と考えられた。のちのインシュラー小文字(insular minuscule)やメロヴィンジャン体(merovingian)を影響した。ローマン草書体はもっとも日常的に使われた書体で、多くはパピルスに書かれ、写本として現存しているものはほとんどない。
ローマン草書体
roman cursive

modern, by Ying
uncialとは「インチ」のこと。1インチほどの大きさの書体のためそのように呼ばれていたとする説もあるが*、1インチ(2.54cm)で書かれた写本はそう多くはない。その名前の起源は判然としない。2世紀から3世紀にかけて、北アフリカで発展した、丸みの帯びた書体。ギリシア語の書体をもとに改良されたともいわれている。
*聖ヒエロニムスのヨブ記への序文
habeant qui volunt veteres libros, vel in membranis purpuris auro argento que descriptos, vel uncialibus, ut vulgo aiunt, litteris
アンシャル
uncial

the Ceolfrid Bible
アーティフィシャル
アンシャル
artificial uncial
ペン先は水平方向にo°をキープするため、細やかペン先操作を必要とする書体。一見スクエアキャピタルに似ているが、あくまでアンシャル体からの変形のため、アルファベットは丸みが帯びたものが多い。ローマンアンシャルとも呼ぶ。
アーティフィシャルアンシャルかスクエアキャピタルか、迷った場合は‘M’と‘E’の形に注目すればすぐに見分けはつく。アーティフィシャルアンシャルはアンシャルの流れをくむので、‘M’も‘E’も丸い形だが、ローマン書体であるスクエアキャピタルは四角い‘M’と‘E’をしている。

the Lindisfarne Gospels, Cotton MS Nero D IV, f. 40r
ハーフアンシャル(half uncial)、もしくはインシュラー・マジュスキュル(insular majuscule)とも呼ばれる。丸くて、ゆっくり丁寧に書かれるため、文字の形がはっきりしているが、現代の人にとって読みにくいアルファベットもいくつかある。豪華の写本に使われる書体。
インシュラー大文字
insular majuscule/
half uncial/
irish majuscule
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アセンダーとディセンダーが長い書体で、形が似たアルファベットが多く、大変読みにくい書体。多くの変形とリガチャーがある。インシュラー・ミニスキュルとも呼ばれる。
Book of Armagh, f. 154r
インシュラー小文字
insular minuscule

Lectionnaire de Luxeuil, f. 9v
ローマ帝国が衰退しはじめると、地方が力を持つようになり、言葉も文字も各地方それぞれで発展するようになり、そんな背景の中に生まれたのがメロヴィンジャン体。フランク王国のメロヴィング朝で広く使われていた。スペースが狭く、多くのリガチャーや変形で大変読みにくい書体の一つ。Xハイトは高く、素早い筆致で不規則なストロークが多い。
メロヴィンジャン
merovingian

南イタリアで使われていた書体。モンテ・カシーノ修道院で発見された8世紀ごろの写本が最初にこの書体を確認できた。Beneventanという名前は都市ではなく中世のベネヴェント公国にちなんだものとか。ローマン草書体から発展し、二つのcを合わさっているようなaの形やtのリガチャーが特徴的。
The British Library Board, Add. 30337, f. 8r.
ベネヴェント
beneventan script

TheMoutiers-Grandval Bible f. 7v
シャルルマーニュの時代に作られた書体。インシュラー(insular)やメロヴィンジャン(merovingian)など、各地域それぞれで発展した書体がかなり難解のため、読みやすい文字をと考案された。西ローマ帝国が滅亡後、初めて西ヨーロッパで広く使われた書体。のちの時代にも長く使われ続け、ヒューマニストやファンデーショナルなど後世に多大な影響を与えた。カロリング体、カロリング・ミニュスキュルとも呼ぶ
カロリンジャン
caroline minuscule/carolingian

The St Albans Psalter
12世紀ごろに現れ、貴重な羊皮紙を節約するためにどんどん文字を横方向に圧縮していくその過程の途中の書体を指す。ゴシック体になる前はカロリンジャンに比べて幅が多少狭いが、少し丸みも残っていて、典型的なゴシック書体であるテクスチューラと比べると幅は少し広い。大文字小文字が同時に存在する一番最初の書体でもある。プロト・ゴシック体とも呼ぶ。
コンプレスト
Proto-gothic script

たくさんあるゴシック書体の中で代表的な書体。ストロークの始まりや終わりにダイヤモンドのセリフがついていて、文字が均等で密集していて、遠くから見たときまるで織布のようであることからテクスチューラと呼ばれた。ゴシック・クアドラータやテクストゥラ・クアドラータ(textualis quadrata)とも呼ぶ。
The British Library Board, Bible Liege, about 1430
ゴシック・テクスチューラ
gothic textura

ゴシック・テクスチューラをもとに、さらに脚の部分を切り落としたかのようにガイドラインに対して水平にそろえるのが特徴。脚をそろえるにはペンを何回か分けたり、細やかなペン先の操作が必要なので、豪華の写本で使われる書体。
The British Library, Add MS 42130, the Luttrell Psalter, f. 202v
ゴシック・プレスキッスス
gothic textura prescissa/
textura prescisus

The British Library, Harley 4431, 'The Book of the Queen' f.135
名前にカーシブとあるように、通常ある程度なスピードで書かれた書体。ストロークが連結され、ペンをほとんど持ち上げずに書き上げる。バスタルダ体と特徴がよく似ているが、ゴシック・カーシヴの方は写本のような高級品よりも基本日常な需要のため、早く書くことが多く、わずかに右に傾斜することが多い。そして文字同士がつながっている部分をループにしがちである。
ゴシック・カーシヴ
gothic cursive

BnF, français 273, Décades de Tite-Live, fol. 11v
ゴシック・バスタルダ
gothic bastard
名前のbastardには混血の意味があり、書くのに時間のかかるゴシック体とより日常にも使いやすい早く書ける筆記体のような特徴を併せ持つためにそのような名前が生まれた。イタリックのような柔らかい曲線的な部分も併せ持つのが特徴。
ゴシック・カーシヴ体とよく似ているが、それと比べて連結の部分がより少なく、ある程度ペンを持ち上げて丁寧に書く書体なので、商業など実用的な分野以外に、数多くの豪華写本でも目にすることができる。ただし、ゴシック・カーシヴ体とは明確に区別できないこともしばしばあり、地域によりそれぞれの書体の特徴は異なる主張がされている。

British Library, Add. Ms.34294, The Sforza Hours
ゴシック書体に属するが、テクスチューラと違って、文字の横幅を大幅に圧縮せず、角ばった直線と丸みを帯びた曲線を組み合わせたのが特徴。北ヨーロッパで好まれた角ばったゴシック・テクスチューラをあえて丸みの帯びたカロリン様式と合わせてイタリアで生まれたとされる一説がある。14世紀ごろに今の形となり、イタリア、そして特にイベリア半島で広く使われていた。幅広く、線がくっきりしていて、ゴシック書体のなかでも読みやすい、遠くからでも読めるため、聖歌の楽譜がこの書体を用いることが多い。この時代の印刷物でもよく使われていた。
ゴシック・ロトゥンダ
gothic rotunda

modern, by Ying
早く書いたために少し右に傾斜しているのが特徴だが、もっと正式なものを書くための傾斜していないイタリックもある。イタリアの聖庁尚書院でも使われるようになり、chanceryチャンサリー体(聖庁尚書院)とも呼ぶ。実用的な書体であったが、より優雅なチャンサリー体などバリエーションも多く、ヨーロッパ中に広まり、かのイギリス女王のエリザベス1世もこの書体を習ったとか。
イタリック
italic

Bibliothèque nationale de France, Livre d’écriture représentant naïvement la beauté de tous les caractères financiers mainten by Louis Senault, p. 5
ロンド
ronde
17世紀ルイ・バルブドール(Louis Barbedor)によって考案された書体。ゴシック書体に影響を受けていたが、丸みの帯びたスタイルが人気となり広まり、フランスでは過去に小学生の 習字で採用されていた書体。18世紀にドイツで改良され、ドイツではDeutsche Rundschrift(ドイツラウンドハンド)とも呼ばれている。文字の書き順を無視し、必ず右下から左上にヘアラインでつなげる特徴がドイツラウンドハンドで、17世紀のフランスで書かれたのは自然のペンの動きによってつなげるのみで(画像を参照)、必ずしもすべてのアルファベットが右下から左上につなげるわけではない。

コートハンドとは中世の法律文書などで使われる書体の総称で、さまざまな形があるが、中でも特にイングランドの王室や裁判所での書類に使われた筆記体を指すこともある。万人に読まれたくないためあえて読みにくいように難解な形をとっている。でジョージ・ビッカムの『The Universal Penman』には、この書体の一例が巻末資料に掲載されています。
Example from Andrew Wright's Court Hand Restored
コートハンド
(裁判所書体)
court hand
参考文献
Patricia Lovett, The Art and History of Calligraphy, The British Library, 2017
Julien Chazal, Calligraphie-le Guide complet, Groupe Eyrolles, 2012
Claude Mediavilla, Calligraphie, Imprimerie nationale, 1993
Editd by Frank T. Coulson and Robert G. Babcock, The Oxford Handbook of Latin Palaeography, Oxford University Press, 2020


